SPECIAL

  • 【白石景之】
  • 【笹塚尊 】
  • 【榎本峰雄 】

【水泡の記憶A】

白い紙に綴られた言葉は、少しずつ擦り切れていく。

黒いインクが滲んで、まるで水の底に沈んでいくように。

(あと何回、読み返せる?)

(あと何回、読み返したら会える?)

胸にぎゅっと抱きしめた手紙がまた擦れていくのもお構いなしに、私は愛しさを募らせる。

たとえこの手紙が色褪せて文字が消えてしまっても、次の手紙が来なくても、私は哀しんだりしない。

あなたと私は、同じ空の下。同じ世界で、同じ想いを抱いて生きている。

それだけで、大丈夫。見上げた星空が、あなたと繋がっているから。

私たちは、離れていても繋がっている。

【水泡の記憶B】

空っぽの箱。

どこまでも高い、真っ白な天井。

鍵の開かない、真っ黒な扉。

俺たちを構成する世界はシンプルだ。

そこに特別な色<心>は必要ない。

『この箱庭の外では、どんな景色が見えるんだろう』

そんな期待など持たないほうがいい。

『この箱庭の外では、誰が待ってるんだろう』

そんな妄想に囚われるのは失敗作だ。

『俺は……代わりの利かない何かに、なれるのかな』

そんな願望など抱いても叶わない。

――生まれたころから脳を支配する声が、俺の心を縛りつけようとする。

「…………嫌だ」

それでも俺は、手を伸ばした。

「俺は……もう、諦めない」

使い捨ての歯車としてではなく、誰かのために生きる人間として。

他には何もいらない。ただ、君と同じ世界を歩きたい。

君への手紙に書いた言葉は、白と黒だけで構成されている。
これじゃ昔と変わらない。相変わらず、俺の世界は単色のまま。

だから、たった一瞬でいい。
愛しい色に彩られた世界でもう一度、君に会いたい。

君の声を、聴きたいんだ。

【水泡の記憶A】

痺れを切らしたような吐息が背後から聴こえて、背中に視線が突き刺さる。

「……おい、こっち向け」

我ながら、その声には弱い。
いつもだったら反射的に振り返ってしまっていたかもしれない。

「無視か。いい度胸してんな、ポチ」
「ポチじゃありません」

でも、今日は振り返らないと決めていた。
私にも許容範囲ってものがあって、なんでもかんでも言いなりになるのは関係として正しくないことくらいわかっている。

「察してちゃんに付き合ってやるほど暇じゃねえぞ」
「…………」
「言いたいことあるなら、ちゃんと言え」
「笹塚さんだっていつもそうじゃないですか」
「あ?」
「察しろ、言わなくてもわかるだろ、って言葉にしないことのほうが多いです」
「…………」

すぐ返ってくると思った次の言葉は聞こえてこない。思ったより効き目があったのか、それとも呆れてしまったのか。
思わず決心が揺らぎそうになって身体を捩じらせると、突如、ふわりと背中に温かさを感じた。
そのまま背後から彼の腕が回って、柔らかく抱きしめられる。

「笹塚さ――」
「顔、見せろ」
「…………っ」
「お前のむくれてる顔、好きなんだよ」
「……ずるい、です……」
「ちゃんと言葉にしただろ」
「……それは、私の顔が見れないと寂しいってことですか?」
「…………そうかもな」

小さな囁きと共に今度は顎に指がかけられて、強引に振り向かされる。
予想通り、何か訴えようとした唇は彼によって塞がれてしまった。

(本当に……ずるい人)

彼は言葉にするのが嫌なんじゃなくて、言葉にするのが下手なんじゃないだろうか。

短くない付き合いの仲で、少しずつ知った彼の不器用さ。
私だけに向ける拗ねた顔も、時に子供っぽいところも、愛しいと感じてしまうのはもう、仕方ない。

【水泡の記憶B】

噛みつくようなキスで唇を塞ぐと、次第にどちらからともなく求め合って、正面から向き合う。
――この顔を見るのが好きでキスしたくなるんだから、お前が悪い。
そう言ったら、こいつはまた怒るんだろう。

「……で?」
「はぁっ……は……あの、ですね。キスで誤魔化すのはやめてください……」
「したくなったから、しただけ」
「もう……わかりました。笹塚さんなりに私の機嫌を直そうとしたってことですよね」
「…………そういうことにしといてやる」

面倒だからと放置することもできたのに、キスで本音を引き出そうとする時点で、まあそのままにしておきたくない気持ちはあるんだろう。
だが、反省するかどうかは別問題だ。なにしろ理由が判明していない。

「で、なんで怒ってたんだよ。靴下裏返しで洗濯機に放り込んだからか?」
「違います。でも、洗濯物は裏返しのまま入れないでください」
「はいはい。じゃ、アレか。お前が嫌がってんのに昨日の夜――」
「違います! ピザを頼んだからです!!!」
「は?」

素で疑問符を返しながら、俺はある種の既視感を覚えていた。
以前もこいつが勝手にむくれて、どんな理由かと思ったらピザを注文しただとかなんとか……。

「お前ピザになんか恨みでもあんの?」
「はい?」
「やけに当たりキツイよな。まさか食いもん相手に嫉妬か?」
「…………そうです」

不可解すぎて軽いジョークのつもりで言えば、真顔で返されて俺はまた虚を突かれた。

「……嫉妬というか。私、今日は笹塚さんの好きなもの作ろうって食材たくさん買って、何時ごろ着きますってメールもしましたよね」
「……あー……」
「なのに扉を開けた瞬間、ピザのいい匂いに包まれた私の気持ちがわかりますか……!!」

もう自棄になっているのか、クッションをぼすぼす殴りながら涙目になっている姿に、自然と苦笑が零れる。
言われてみればその怒りも理解できる。そもそもメールが着た時点でピザは注文済みだったのだが、そんな言い訳をする必要もないだろう。

「腹減って我慢できなかったんだよ。まだ全然余裕あるし、ピザは前菜っつーか、お前のもちゃんと食べるつもりだった」
「空腹は最高の調味料って言葉知ってますか」
「知ってる。けど、空腹じゃなくてもお前のメシは美味いぞ」
「……っ、そんな言葉で騙されませんからね! でもありがとうございます!」
「くっ……ははっ、マジでお前、飽きねえな」

いつの間にか互いの声に宿っていたかすかな緊張感は消えて、俺が笑うと、むくれていた恋人も堪えきれないように笑った。

「……そこまで怒ってたわけじゃないのに、ちょっと意地悪しました。ごめんなさい」
「バーカ、謝んな。言いたいこと溜め込むなっつってんだろ。俺だって完璧なわけじゃねえ」

先回りして謝る素直さに、バカみたいに愛しさが募った。
またその身体を引き寄せると、こめかみにキスを落とす。俺の背中に回った細い指が、ぎゅっと服を握る感覚に片笑んだ。

――出会った頃とは違って、俺はこいつに教わることも多い。
言われなくてもわかることや、言わなきゃわからないことがあっても苛立ちより愛しさが勝る。それは一方通行じゃなく、互いに同じ想いがあるから抱く感情なんだろう。

「じゃ、お前のメシまでもうちょい腹減らすか」

言いながらキスを深く繋いでいくと、眼前の顔がハッと気づいたように焦り始めた。

「ま、待ってください。あの、私はご飯の準備を……」
「空腹は最高の調味料、なんだろ。適度に運動したほうが腹減るよな」
「屁理屈です……っ!!」

抗議の声は聞こえなかったフリをして、俺はまたその唇を塞いだ。

以前よりも、だいぶ言葉にするようになった。
言葉にするのが面倒でもなくなったし、むしろ言いたい時は好きなだけ言ってる。

それでも、やっぱり実力行使のほうが伝わるのだから、仕方ない。

【水泡の記憶A】

「あれ、香月は?」
「打ち合わせが長引いてるみたいで。夕飯までには帰るってメール着てましたよ」
「そっか、あいつも頑張ってんなー」
「はい。……でも、楽しいだけじゃないみたいで、やっぱり大変そうです」

テキパキと冷蔵庫に食材を入れていた市香が、わずかに目を伏せる。
その横顔に寂しさのようなものを感じ取って、俺は苦笑した。

仕事で見せる真面目な顔や、俺に見せる屈託のない笑顔とは違う。
弟を心配するときの姉の顔をしたこいつは、どこか儚げで……見ていて少し心配になる時がある。
自分も妹がいるからわかるが、一緒に育った存在の成長は嬉しいだけじゃなくて、複雑なのだ。

「大学生って勉強にバイトに趣味に……いくら時間あっても足りないもんな。今日は無理しなくていいってメールしとくか」
「あ、それしたら香月拗ねちゃいますよ。峰雄さんと夕飯食べるの楽しみにしてたんですから」
「お、マジで? ……ったく、可愛い奴め! んじゃ、香月のためにも気合入れてメシ作るとすっか! 俺も手伝うぜ」
「ふふ、ありがとうございます。さっそく準備しちゃいましょう」

平日の夜。仕事が終わった俺たちは、帰りがてら食材の買い出しをして市香の自宅を訪れていた。
――同じ職場から一緒に帰って、キッチンに並んで料理をして、向かい合って夕飯を囲む。
さすがに毎日じゃないけど、月に何度かはこんな風にゆっくりとした時間を過ごして。

他人にとっては当たり前に見えるこの日常を、俺は未だに奇跡のようだと思う。

「峰雄さん、あとはもう私だけで大丈夫なので、テレビでも見てゆっくりしててください」
「ん、そうか? じゃ、お言葉に甘えて」
「あ、ビール冷えてますけど飲みます?」
「えっ! いいのか!?」
「あと昨日の残りですけど、春菊の胡麻和えもあるので、おつまみにして先に一杯どうぞ」
「うっ……いやいや、お前だって仕事で疲れてんのに、俺だけ先にってのは……」
「峰雄さん今日はお疲れですし、飲みたかったでしょう?」
「だけどよ……」
「それに……なんだか、新婚みたいですよね、こういうの」
「ぐぅっ! し、新婚……!?」

にっこりと笑顔で缶ビールを押しつけて、エプロン姿の市香が軽やかに背を向ける。

(……ほんと、俺いつかバチ当たるんじゃねーかな……)

そんなことを心中で呟きながら、俺はビール片手にテレビを眺めてぼんやりしていた。

バラエティ番組の騒がしさに混じって、市香が包丁を扱う音が聞こえてくる。
鍋の味噌汁がコトコトと小気味いい音を立てて、部屋が家庭の音に包まれる。

(いつか、これが当たり前になる日が……来るのか……?)

仕事の疲れとアルコールが混ざりあって、ふわふわとした浮遊感を覚えた。

――ゆっくりと、世界が廻りだす。でもこれは、疲労と酒のせいだけじゃない。
俺はもう、ここ最近ずっと……幸せすぎて、いつもくるくる舞い踊ってるような心地だ。

【水泡の記憶B】

お皿に盛った料理をリビングに運ぼうとして、気付く。
峰雄さんが片手にビール缶を持ったまま、テーブルに突っ伏していた。

「……峰雄さん? 大丈夫ですか? 眠くなっちゃいました?」
「んんぅ……だいじょぶ……ぐるぐるするだけ……」
「すきっ腹にビールは良くなかったですかね……気持ち悪くないですか?」
「うん……へへ、むしろ……すげーきもちいい……」
「ごはんできましたよ。香月ももうすぐ着くみたいなので」

舌ったらずに返事をする峰雄さんを微笑ましく見つめてから、テーブルに料理を並べていく。
――ふと、視線を感じて振り返ると、なぜか彼は私をじっと見つめていた。

「……俺さ、お前といると……ぱーになる」
「はい?」
「くるくる……ぱぁ」
「けっこう酔ってますね……?」
「お前もそうだったらいいなー、って思うんだ」
「あの、峰雄さ――」

お水飲んでください、と言おうとしたのに、いきなり腕を引かれて言葉を失ってしまった。
息がかかるほど近くに彼の顔が迫って、どきりと鼓動が跳ねる。

「……なあ。俺と一緒にいると、お前はどんな感じ?」
「どんなって……どうしたんですか、急に」
「俺はさー、ふわふわ浮かれて、楽しくて、でもドキドキで落ち着かなくて」
「同じですよ」

子供のように甘えてくる彼に、私は苦笑を返した。
帰り道から気付いていたけど、たぶん今日は仕事があまり上手くいかなかったのだろう。
疲れた顔をしていたし、声に覇気がなかった。でも、彼は肝心なところで弱音を吐かないから。

「私も、峰雄さんといるといつも楽しくて、ドキドキします。同じです」
「おなじ……そっか! やったー」

どこか物憂げだった彼がパッと笑顔になって、私も自然と笑みが零れる。
警察に復職してから時折、前よりも大人びた目をするようになった彼が、私の前では無邪気な表情を見せてくれることが嬉しかった。

「じゃ、一緒にくるくるしようぜー。浮かれついでに踊っちまおー」
「もう……峰雄さん、ごはん冷めちゃいますよ」

ぎゅっと手を握られて、抱き寄せられて、彼の体温にまた鼓動が速くなる。
普段はこんなに密着したら照れてしまう人なのに、時々大胆になるのはずるいと思う。

でも、私だって本当はもっともっと近くで触れていたいから。
彼が酔っているのをいいことに、そっと目の前の胸に頭を預けた。

――数十秒後、帰宅した香月に呆れ顔を向けられたのは、言うまでもない。

 WHAT'S NEW

2018.06.15 キャラクター:サンプルボイス 更新


2018.06.08 キャラクター:サンプルボイス / スペシャル:SS「水泡の記憶」 更新

2018.06.01 キャラクター:サンプルボイス / スペシャル:キャストコメント 更新

2018.05.25 ストーリー:アドニス / システム:アドニス編の流れ 更新

2018.05.18 ストーリー:サイドストーリー / スペシャル:SS「水泡の記憶」 更新

2018.05.11 ストーリー:サイドストーリー / ギャラリー / ムービー:プロモーションムービー 更新

2018.04.27 サウンド:BGM情報 / サウンド:アーティストコメント / ムービー:オープニングムービー / インフォ:店舗特典 更新

2018.04.20 サウンド:主題歌情報 / インフォ:特典情報 更新

2018.04.06 ギャラリー / スペシャル:SS「水泡の記憶」 更新

2018.03.23 ストーリー:サイドストーリー / キャラクター:「白石景之」立ち絵差分 更新

2018.03.09 ギャラリー更新

2018.02.23 キャラクター:「榎本峰雄」「笹塚 尊」立ち絵差分、「染谷友香」 更新

2018.02.09 ギャラリー / システム 更新

2018.01.26 キャラクター:「岡崎 契」立ち絵差分、「橘 千聖」 更新

2018.01.12 ギャラリー 更新

2017.12.27 キャラクター:「星野市香」「柳 愛時」立ち絵差分、「柳 優時」 更新

2017.12.15 サウンド 更新

2017.12.01 ギャラリー 更新

2017.11.20 公式サイト 公開

 PRODUCT INFO.
タイトルCollar×Malice -Unlimited-
対応機種PlayStation®Vita
※PlayStation®Vita TV対応
ジャンルラブ×サスペンスAVG
発売日2018年7月26日 発売予定
価格
(税込)
通常版 6,804円
限定版 8,964円
DL版 6,264円
ツインパック 11,448円
CEROC(15才以上対象)
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